米国株が直近で20%上昇していてもさらに暴落していくと考える根拠

米国の主要株価指数であるS&P500、ダウ、NASDAQは、2022年に入ってから軒並み20%近い暴落を、NASDAQに至っては35%もの最大下落率を経験した。

だがここ2ヶ月ほどで、どの指標も下落幅のおよそ40%を戻し、投資家たちは米国株はすでに底を打って上昇に転じたと受け止め、こぞって買いに転じた。

YouTubeで長期投資を薦める投資家たちも、ほとんどが米国株の買いを勧めている。

だが、私は米国株はまだまだ底を打っておらず、さらなる暴落が待っていると考えている。

先日も、NASDAQの3倍ベアETFとほぼ同じ値動きをする(相関係数0.993)商品を買って、下落する方向にポジションを持った。

ここではその根拠を述べていきたい。

米国株が上下する根本的な要因

まず、株とは株式会社の所有権のことだ。

なぜ株式会社を所有するのかと言えば、当たり前だが高値で売って利益を得るためだ。

その利益は、株式会社が生み出した付加価値からもたらされる利益から来る。

それならば、株価は理論的には、その会社が将来に渡って生み出す利益の合計を、現在価値に割り引いて、それを株数で割ったものになるはずだ。

それより安ければ、売り手はどう考えても損をする(本来の理論価格より安く売ることになり、本来得られたはずの利益を取り逃がす)のだから、安く株を買いたいと思っても売ってくれる人がいるはずがない。

高い場合も、立場を逆にして考えればわかるだろう。

現実には、ここに市場の思惑が関与することでしばしば理論価格を大きく乖離するが、長期的には理論価格に落ち着いていく。

ここまでの説明が正しいとすれば(これはファイナンス理論の基本事項なので、おそらく正しい)、株価を決めるのは究極的には企業の利益となる。

それでは企業の利益を決めるのは何なのか?

ここでは米国株に限って、実際のデータを見てみよう。

https://sustainableconsumption.usdn.org/economy/overview

上記は米国GDP(1年毎に創造された付加価値の総額)の内訳で、個人消費が68.5%、民間への投資が17.7%、政府の支出と投資が16.6%、輸出が-2.9%となっている。

つまり、7割近くを占める個人支出が、企業の収益の大部分を占めているのだ。

まとめると、長期的に株価が上がるのは、次のようなサイクルが回っているときだ。

  1. 活発な消費者の購買
  2. 企業収益の増加
  3. 賃金の上昇

株式会社が生み出した付加価値を消費者が活発に消費することで、企業収益が増加し、インフレ(ディマンドプルインフレーション※1)が起こったり、給料が安いままだと他社に人材を奪われるので、賃金が上昇する。

賃金が上がることでさらに消費が活発になり、さらに株式会社の収益(時価総額)が増えていく。

株式とは株式会社の所有権なのだから、こうなれば当然株価は上がっていく。

(※短期的には、市場の思惑によって株価は上下している)

逆に事業内容に問題がないにも関わらず長期的に株価が下がるのは、以下のようなサイクルが回っているときだ。

  1. 消極的な消費者の購買
  2. 企業収益の減少
  3. 賃金の下落

消費が鈍り、企業収益が減り、労働者に支払える賃金は減少し、さらに消費が減って企業収益が減少する。

当然株価は下落する。

1~3番のどれかが+-のどちらかに振れると、他の要素に影響を及ぼし、増幅して戻ってくる。

これが延々と繰り返されるので、一旦好況や不況になると、普通それはある程度の期間(1~10年)持続的に続く。

ここまで説明した内容で、株式会社の事業内容に問題がないのだとしたら、賃金の騰落は企業収益の騰落の結果なので、長期的に見て株価を動かす主な要因は、

  • 米国の消費の7割近くを占める消費者の購買力
  • 企業の経費率の変化

だということがわかる。

それでは、現在の状況を見てみよう。

根本原因はインフレを抑えるための利上げ

現在米国では、8%を超えるインフレを抑えるために、毎月0.75~1.00%の利上げを実施している。

インフレの原因として以下が考えられる。

  • コロナで抑制されていた需要の反動
  • 景気刺激策としての金融緩和と現金給付の反動
  • 需要増に追いつけないサプライチェーンの混乱
コロナで抑制されていた需要の反動

アメリカではほとんどコロナを克服できたことで、それまで抑えられていた消費が復活し、コロナ前以上の需要となったのに対し、供給がそれに追いついていない。

また後述の通り、原材料の高騰や不足によっても、供給不足となっている。

景気刺激策としての金融緩和と現金給付の反動

米国ではコロナが蔓延してすぐに、2020年4月までだけでも300兆円規模の経済対策を講じた。

その後も3回に渡って国民全員に13万円の給付をするなど、追加の対策をずっと続けてきた。

そして現在、先述の通りコロナをほとんど克服できたことで、これが爆発的な需要の増加に繋がったのだ。

需要増に追いつけないサプライチェーンの混乱

急激に増えた需要に対して、コロナ禍中の需要減で縮小していたサプライチェーン(物流網)はすぐには回復しない。

マクドナルドの店頭からポテトが消えたことが記憶に新しいだろう。

 

このように、需要の爆発的な増加と供給の不足によって、現在の高インフレが起きていると考えられる。

そして賃金の上昇を超えるペースでインフレが起きれば、当たり前だが家計は苦しくなる。

さらに先述の通り経済には強力な粘性があるので、インフレが長引けば長引くほど、それを正すのは難しくなる。

そのため、FRB(連邦準備理事会)は利上げを行うことで消費を無理やり抑えようとしているのだ。

利上げの影響

利上げとは、簡単に説明すると、借金をするときに払わなければならない利子が増えることを意味する。

銀行が預金者に支払う利子(預金金利)は上昇する一方、銀行の融資先が銀行に支払う利子も上昇する。

こうなると、消費者はものを買うよりも預金するほうが得だと考えるようになり、高い利子を払ってまで住宅ローンを組んだり融資を受けようとする者は減り、融資が必要な企業も借りられる額が減り、成長が鈍化する。

すでに住宅ローンを組んでいる人は利払いが増え、家を売却する人が増えることで供給が増えて住宅価格は下落する。

そして賃金も減少し、インフレは収まっていく。

現在のファンダメンタルズ

だが、インフレを抑えるために継続的な利上げを実施しているにも関わらず、利上げの影響を真っ先に受ける住宅価格はまだ下がり始めてすらいない。

https://jp.investing.com/economic-calendar/monthly-home-price-index-1287

さらに、以下は株価(青線)とインフレ率(赤線)の関係だが、

矢印にあるように、株価の暴落はインフレが収まるのとほぼ同時に終わる。

これはインフレが収まることで利下げが行われたり、物の値段が下がったことで消費が活発になることによるが、現在(黒枠内)は、とてもインフレが収まったと言える状況にはない。

また、以下は株価(青線)と新規失業保険申請数(≒失業者数、赤線)の関係だが、

不況が訪れると失業者が急増し、株価は暴落するが、景気が回復すれば失業者は減り、株価は上昇に転じる。

これらはほぼ同時に起こる。

だが現在は、そもそも失業者の増加は始まったばかりで、株価はかなり戻しているが、失業者数は殆ど減っていない。

つまり、現在の上昇は下落トレンドの中の一時的な反発だと考えられる。

更に悪いことに、逆イールドまで発生してしまっている。

逆イールドは長期金利(一般的に10年)と短期金利(一般的に2年)の利率が逆転する現象を指す。

通常は長期の投資になるほどリスクが上がるため、利率も上がるが、現在行われている短期金利の利上げなどによって、短期金利長期金利を上回ることがある。

その結果として、短期金利で預金を集め、長期金利で融資をすることで利ザヤを取る銀行は利益を出せなくなってしまい、貸せば貸すほど損になるので融資を渋る。

これによって主に住宅の新規着工数が減少したり、融資なしでは存続できない企業が倒産したりする。

これまでも、長期金利短期金利を大きく下回った(写真グレー部分)後には、必ず株価の暴落(写真紫の部分)が起きてきた。

現在もこの差が0%を大きく下回っているが、逆イールドが発生したのは株価が暴落した後、上昇に転じ始めた後だ。

今後、さらなる株価の下落が待ち受けていることは必至のように思われる。

まとめ

  • 株価を動かす要因は企業の収益(の見込み)
  • 企業収益を左右するのは消費者の購買力と企業の経費率
  • 現在、インフレを抑制するために利上げを実施中
  • 利上げをすると消費は鈍化し、利払いが増加して利益が減少し、株価は下がる
  • インフレは収まっておらず、失業者は増加中、逆イールドもつい最近発生

以上を鑑みると、どう考えても株価は今後さらに暴落するだろう。

 

2022/08/29追記:

アメリカ国民の貯蓄(オレンジ)は急速に減少してマイナスに転じ、借金(水色)が急速に増えている。

これが持続可能なはずはなく、臨界点を迎えたときに現在よりも更に深刻な不況が訪れるだろう。

また、現在は需要に供給が追いついておらず、各企業が大幅な増産で需要に応えようとしているが、需要が頭打ちになりインフレが収まり出すと、企業は大量の余剰在庫を抱えるようになり、さらに不況に拍車が掛かる。

 

 

 

 

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